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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1462号 判決

控訴人

金福順

控訴人

李三東

右両名訴訟代理人

栂野泰二

ほか一名

被控訴人

金子眞治

右訴訟代理人

小林嗣政

主文

本件控訴を棄却する。

ただし、原判決別紙目録二1記載の建物の表示を本判決別紙記載のとおり改め、請求の減縮により、原判決主文第一項中「昭和四七年九月二六日」は「昭和四七年九月二七日」改められた。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所の認定判断は、次のように訂正附加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)、(二)(訂正附加)《略》

(三)  控訴人両名及び被控訴人の原審における各尋問の結果によれば、控訴人らが本件土地を賃貸借、被控訴人の承諾を得て本件土地の土盛、整地をなした事実が認められる。そこで、控訴人らは、右土盛整地による有益費償還請求権のあることを前提として、本件土地につき留置権を主張するが、有益費償還請求権は、占有者の費用支出によつて占有回復者が当該物件増価の利益を得、その間に法律上の因果関係があることが必要であるところ、〈証拠〉によると、本件土地は、周辺の土地と共に、横浜市が土地区画整理事業を施工すべき地域に含まれ、本件土地賃借の申出があつたときも、すでに近く右事業による土盛、整地、排水管設置の工事が必らず実施されることにきまつていたので、被控訴人としては、「本件土地の賃借は区画整理事業がすんでからでよいではないか」と答えたのであるが、控訴人両名は、「早く借りたいので費用は自分の方で負担するから、埋立整地を自分の方で先にやらせてもらいたい」旨懇請し、そこで被控訴人は右約旨のもとに、かつ土地区画整理事務所の許可があることを条件に右申出を承諾したこと、その結果控訴人両名において区画整理事務所の許可を得たうえ、前記認定の土盛、整地を行なつたものであることが認められる。

右の事実によれば、本件土地は、その属性として土地区画整理事業によつて客観的に土盛、敷地が必然的になされるべきものであり、その施工をまたずに控訴人らが土盛、整地をしたのは、単にその時間を早めただけに過ぎないから、被控訴人としては、その所有にかかる本件土地が右控訴人らの土盛整地によつて、それ自体増価したという利得を得たものということが出来ず、したがつて本件土地の場合は、控訴人らの費用支出と被控訴人の利得との間に有益費償還請求権を成立させるべき法律上の因果関係があつたことを認めることができない。のみならず、控訴人らは右支出の費用を自己で負担し、被控訴人に対しこれを請求しないことを約していたのであるから、いずれにしても控訴人ら主張の如き有益費償還請求権は成立せず、したがつて同請求権の存在を前提とする控訴人らの留置権の抗弁は、これを採用することができない。〈以下、略〉

(豊水道祐 舘忠彦 安井章)

(別紙)〈略〉

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